クレーム紙一重
私のウェイターこぼれ話。
1週間ほど前、山梨県内の観光ホテルYで、旅行客の夕食の接遇(サービス)をした時のことでございます。
夜6時を過ぎると、家族連れやご夫婦が一組二組と夕食会場に集まってきます。
お客様が席に着かれたところで、ウェイターの私は笑顔で『こんばんは』とご挨拶し、ドリンクをお伺いします。
1人のお客様でした。50台後半、やや白髪交じり、細おもての眼光の鋭い方、それでも、なにかそこはかとなく紳士的な雰囲気を漂わせておりました。
『こんばんは、お疲れ様でございます。何かお飲み物をご用意致しましょうか・・?』と私はドリンクメニューをお見せしながらお伺いしました。
お客様は『ハウスワインの赤を頼む』と、やや低い太い声で静かに言いました。
私は『はい、かしこまりました、少々お待ち下さいませ』と言って、赤のハウスワイン(そのホテル専用ワイン)のボトルとワイングラスをお席へお持ちし、『お待たせ致しました。注いでよろしいでしょうか』と言って私は静かに赤ワインをグラスに注ぎます。
注ぎ終えたところで、『もしワインが残りましたらお部屋でお召し上がり頂いて結構でございます。』と説明を加え、ボトルをテーブルの上に、ラベルをお客様に見えるように置きました。
お客様は何の返事もせず、うなづきもせず、一瞬考え込むようなしぐさをしたようにも見えました。それでもひと間あってのち、すぐにグラスをとってワインを飲み始めたので、私はそう気にもとめず、そのままにしておきました。
不思議なことに、その方の近くを通ると、何か感ずるのです。視線を感じるようでもあり、でも目は合いません。何か言いたげな・・・でもその<何か>はよく分りません。だんだん気になってきました。
その方のお食事もだいぶ進み、近くを通った時、ワインのボトルとワイングラスが、わずかですが15センチほど押しやられたように、前に移動していることに気が付きました。
お客様はワインをグラス1杯だけ飲み、ボトルとグラスを自分から遠ざけたのです。
私はハッとしました。<お客様はもしかしたら、ワインボトル1本を注文したのではなく、ワインのグラス売り1杯を注文したのかもしれない・・・>
私はあせり、迷い、そしてお客様にお伺いしました。
『お客様恐れ入ります、わたくし、勘違いをしていたかもしれません。ワインのボトルではなく、グラスワインをお客様は注文なさったのではないでしょうか・・・?』
お客様は黙ってうなづきます。すぐにドリンク伝票を訂正しお詫びします。
<ボトル1本6000円>に線を引いて訂正し、あらたに<グラスワイン1杯 780円> と書き加えます。
ふーっ!
お客様のちょっとした<表情の変化>に気が付いてよかった、
お客様の<テーブルの表情の変化>に気が付いてよかった、
自分の間違いに気が付いた時、<勇気>を持ってお客様に確認をしてよかった、
大ごとにせず<許してくれるお客様>でよかった・・・。
よかったよかったに支えられて、紙一重でクレームは免れました。
<言わない客が悪い>と言ってしまったら、私のウェイター人生はおしまいです。
私の人生も寂しいものになるに違いありません。
よかった、よかった・・・私のウェイターこぼれ話。
photo by Tomo.Yun
http://www.yunphoto.net
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